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ダイナミックバランス調整は必要か 2021/8


 タイヤ交換時に「ダイナミックバランス」調整をする必要はあるのかを考えてみました。例によってかなりマニアックな話なので、特に興味のある方だけどうぞ。


 タイヤを交換した後は、タイヤを組み込んだホイールのバランスを調整する作業を行います。原付、オフ車などでは行わないことが多いですが、概ね250cc以上のバイクでは行われる作業です。
 バランスを調整しないとどうなるか? 高速走行時にハンドルや車体が振動する原因になることがあります。

 バランス調整には2種類あります。「ダイナミックバランス」調整とスタティックバランス」調整です。
 ダイナミックバランス調整は専用装置で回転させて測定を行い、ホイールの内側と外側の2箇所に分けてウエイトを貼り付けます。四輪車のタイヤ交換時に行われます。
 もう一方、スタティックバランス調整はダイナミックバランス調整と比べると原始的な方法です。専用シャフトを通したホイールをバランサー上に置くと最も重い部分が下になるので、その反対側にウエイトを貼り付けます。バイクのタイヤ交換をDIYですると、この方法でバランス調整をすることになります。四輪車では行われません。

スタティックバランス調整作業の例。

 今回考えてみたのは、バイクでダイナミックバランス調整をする必要があるかです。Web上ではダイナミックバランス調整をしたほうが良いとする見方があり、ダイナミックバランス調整が可能な測定器を使用しているショップもあります。
 しかし私はバイクではダイナミックバランス調整は不要、スタティックバランス調整のみで十分と考えました。そう考えた理由を書いてみます。

二輪車と四輪車の構造比較
なぜ四輪車でダイナミックバランス調整がされているかを考えるため、まずは二輪車と四輪車それぞれの足回りの構造を比較してみます。

二輪車、四輪車の足回り構造比較図。
 まずは見た目にも明らかに違う幅から。二輪車のタイヤとホイールは狭く、四輪車のそれは広いです。ただし最近のビッグバイクは190や200の幅のリアタイヤを履くモデルがあります。それらと比べるとあまり違わない四輪車も少なくありません。頻繁に見かける車、現行プリウスのタイヤ幅は195または215でした。
 次にホイールの支持方法を比較してみると二輪車ではホイールの両端を深溝玉軸受(ボールベアリング)で支えます。対して四輪車では中央付近を複列アンギュラ玉軸受または複列円すいころ軸受で支えます。複列軸受けは2個の軸受けが並列になっています。
 最後にホイールの構造ですが二輪車は左右対称です。一方四輪車はホイール内側にブレーキ機構があるのでタイヤは片持ちで支えられています。

スタティックバランスとダイナミックバランス
 それぞれを四輪車を例に考えます。前述の構造図だと分かりづらいので単純化しました。
 図1-1は重さに偏りのあるタイヤ・ホイールです。重さの偏りは「m」(mass、質量)として表わしました。内側と外側それぞれに重い場所があって、その位置も違っているとします。放っておくと重さに偏りがあるので最も重い場所が下になるまで自然に回転します。
 これを高速回転させると上下だけでなく左右に首を振るようにも振動してしまいます(図1-2)。


 重さの偏りをなくすために錘「w」(weight)を追加しました(図2-1)。これで特定の場所が下になろうと自然に回転することはなくなります。これをスタティックバランス(静釣り合い)調整と呼びます。しかしこれを回転させるとまだ振動が発生してしまいます(図2-2)。上下方向の振動はなくなりますが、左右に首を振るような振動はそのままです。
 ではどうすれば振動をなくせるかというと、ホイールの内側と外側、それぞれで釣り合うような錘の取付けです(図2-3)。こうすれば回転させても振動は発生しません。四輪車のホイールの内側と外側に分けてウエイトが取り付けられているのはこのためです。こちらはダイナミックバランス(動釣り合い)調整と呼ばれます。


二輪車のタイヤ交換時にダイナミックバランスは取らなければならないか
 四輪車ではダイナミックバランス調整をするのが一般的です。しかし私は二輪車ではダイナミックバランス調整は不要で、スタティックバランス調整だけで十分と考えました。その理由を挙げてみます。

 1 構造の違いから
 二輪車のタイヤ・ホイール幅は狭いため、ダイナミックバランスの狂いによる横方向の振動は発生しにくいです。さらにホイールは左右対称構造で両端が支持されているため振動しにくい構造です(図3)。
 しかしこの理由は結局は程度の違いです。理由としては弱いのでさらに理由を挙げます。


 2 サービスマニュアルの指示がスタティックバランス調整のみとされているから
 ダイナミックバランス調整は指示されていません。メーカー問わずたまに無茶なことが書かれていたり、肝心なことが書かれていなかったりするサービスマニュアルではあります。しかし操縦安定性に関わる内容なので信用しても良いでしょう。

 3 レースの世界でもスタティックバランス調整しかしないことから
 レースでは他車より0.1秒でも早ければ勝ち、遅ければ負けです。速さにつながること、遅くならないためのことであれば小さなことでも必ず行われます。一方で忙しい現場では無駄な作業は行われません。
 レース現場でのタイヤバランス調整の動画を検索してみたところ、いずれもスタティックバランス調整のみでした。仮にダイナミックバランス調整をしないことが理由で振動が発生するのであれば、タイム悪化につながります。しかし最高速度300km/h超のレース現場でダイナミックバランスを取っていないので不要といえます。


 動画ではいずれもウエイトをリムの中央ではなく端に貼っています。ダイナミックバランスを少しでも考えればリムの中央に貼りそうですが実際は端です。端に貼ればダイナミックバランス的には不利になります。このことからもダイナミックバランスは考慮されていないことが分かります。

 4 実際にダイナミックバランスを狂わせて走ってみた結果から
 ZX-14Rで試してみました。

リムに貼り付けたウエイト。

 ホイールの対角、リムの左右に30gずつのウエイトを貼り付けました。養生テープは後で剥がしやすくするための下地です。

30g分のウエイト。

 これはフロントホイールで試した時です。ありあわせなので形が揃っていないのはご愛嬌。走行時は不意に外れないようにこの上から覆うように養生テープを貼りました。
 この状態で高速道路を走ってみました。結果、フロント、リアいずれの場合も影響はありませんでした。スタティックバランスには影響を与えないとはいえ、2箇所に取り付けられた30gのウエイトの見た目のインパクトは大きいです。ひょっとすると振動が出るかもしれないと考えましたが、元気に走っても影響は感じられませんでした。

 以上の理由から、私はバイクではダイナミックバランス調整は不要と考えました。
 もちろん、ダイナミックバランス調整をしても悪いことはありません。ダイナミックバランス調整はスタティックバランス調整も兼ねます。片持ちで幅広のホイールで高速走行をするなら必要かもしれません。ドゥカティのディアベルダークというモデルはリアタイヤ幅240で片持ちでしたが、ダイナミックバランス調整が有効かもしれません。

 レースシーンでのバランス調整の動画を見ていて気が付いたことがあります。それは外形の凹凸を必ずチェックしていることです。チェックは全メーカー共通で行われています。ピレリとブリヂストンは目で見て手で触ってチェックしています。ミシュランは測定器を活用しているようです。
 そもそも外周に凹凸があれば安定した走行は望めないので、バランス調整以前にチェックがされているようです。

 この記事、工学的に誤った表現や解釈もあるかもしれませんので悪しからず。

参考

書籍
 ベアリングがわかる本 NTN株式会社編集チーム 森北出版株式会社 ISBN978-4-627-66791-4 松本市立中央図書館

Webサイト
 バランサ豆知識 島津製作所 https://www.shimadzu.co.jp/industry/products/bm/0601.html 2021-8-21参照