会社の先輩より、「アイソレーションレギュレター」なる物の修理を相談されました。
聞きなれない名前です。
音質向上のために、オーディオ機器の電源に接続する物だそうです。
通常、オーディオ機器の電源はコンセントに接続します。
しかし、コンセントから直接供給される電力は、ノイズが乗っていたり、
本来の正弦波から歪んでいたりしているため、音質悪化の原因になるとのこと。
この装置はそれを改善するための物で、コンセントから供給された電力を一旦直流に整流し、
それを再び交流に変換して機器に供給するそうです。
また、出力周波数を切り替えることによって、さらに音質を向上させることができるとのこと。
修理品では50、60Hzに加え、80、100、120Hzの出力が可能になっています。
50、60Hz以外の周波数の電力を機器に供給して大丈夫なの?という疑問はありますが、
音質向上の効果は確かにあるそうで、80Hzで常用しているそうです。
今回預かった修理品ですが、出力が瞬間的にゼロになってしまい、
接続しているCDプレイヤーがリセットされてしまうとのことでした。
発生のタイミングはランダムで、頻度はCD1枚を聴き終える事が出来ない位、とのこと。
電気機器の修理もある程度なら出来るので、駄目元で修理に挑戦してみることにしました。
ちなみに、製造元のCSEという会社は既に無くなってしまっているそうで、修理に出すことはできないそうです。
外観。
大きなトランスが入っているので重いです。
動作を検証してみます。
正常時。
手持ちのアンプとテスターを繋ぎながらしばらく動作させてみましたが、
不具合が発生しません。
100Vが出力されています。
異常時。
なかなか不具合が発生しないので、周波数切替のロータリースイッチを操作してみました。
すると、触れるだけで電圧が低下してしまうことがありました。
常用している80Hz位置での発生頻度は稀ですが、120Hz位置では酷く、
接続したアンプの電源が落ちてしまいます。
ロータリースイッチの接触不良のようです。
分解開始。
ロータリースイッチを取り出すために分解します。
まずはカバーを外します。
正面パネル部の分解。
なかなか手作り感いっぱいの機器です。
板金部品は金型を使用せずに作られています。
取り出したロータリースイッチ。
少し湿っていて、埃が付着しています。
接点復活剤を吹き付けた過去があるのかもしれません。
青いカバーの中、肝心な接点の状態を点検します。
内部の接点。
表面は酸化して汚れていました。
これでは導通不良になってしまいます。
本来は非分解ですが、かしめ部を曲げ戻して分解しています。
接点の清掃。
ワイヤブラシで軽くこすって磨きました。
接点復活剤の残りも洗い流しました。
動作テスト。
スイッチに触れても、電圧低下は発生しなくなりました。
しばらく様子をみて問題なければ、スイッチを新品に交換して修理完了にします。
おそらくこのままでも接触不良は再発しないと思いますが、
非分解のスイッチを分解してしまっているため、念のために新品交換です。
幸い、汎用部品のため同型部品が300円程度で購入可能でした。
しばらく動作テストをしていましたが、不具合は再発しませんでした。
原因はやはり、ロータリースイッチの接触不良だったようです。
そこで交換用の新品のロータリースイッチを手配しました。
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新品のロータリースイッチ。
アルプス電気製で、2回路5接点のショーティングタイプです。
価格は263円、配送料金660円。
軸の短縮。
そのままでは軸が長すぎるので、切断して短縮します。
切断する場合は、不要になる軸の先端側を固定して作業します。
本体側を固定して作業すると、切断時の力で傷める恐れがあります。
また、切粉がスイッチ内部に入らないように養生しておきます。
交換作業。
古いスイッチを外し、新しいスイッチを半田付けします。
元のスイッチには、1回路分だけ結線されていました。
しかしスイッチには2回路分の接点があります。
せっかくなので、接点を並列に接続して冗長性をもたせておくことにしました。
こうしておけば1つの接点が接触不良になっても、もう1つの接点で導通が保たれます。
まあ、新品に交換するので、オリジナル通りの1回路分の接続でも当面は問題ないはずですが。
修理完了。
ロータリースイッチやパネル、カバーを復元し、再度動作確認をして修理完了です。
復元にあたっては、他の箇所の目視点検とお掃除をしておきました。
古い電気機器の弱点の電解コンデンサーですが、今のところ液漏れや膨張は確認されませんでした。
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修理完了後、オーナーの元へ返却に行きました。
その際、この装置の効果を比較試聴させてもらいました。
オーディオはさほど詳しくない私の耳で分かるとは思っていなかったのですが、効果は確かにありました。
音が明瞭になり、拡がる感じがします。
ずっとこの装置を使ってきたオーナーにとっては、これが不可欠なのも頷けます。
その後、しばらく経過しましたが、故障は再発していないとのこと。
お役に立てて良かったです。