ベーパーロック考察

2023/7

 一度ベーパーロックを起こすと再発しやすくなるのでブレーキフルードの交換をすべき―。本当なんだろうか? 考察してみました。

 一昨年から始めたモトジムカーナ。お借りしているスキー場の駐車場でパイロンをクルクル走ります。最高速度は40km/h位でしょうか。街乗りよりも遅い速度です。

 速度は遅いもののリアブレーキは多用します。ジムカーナの走り方はちょっと変わっていて、ターン中ずっとリアブレーキをかけ続けることも。そんな走り方で連続して走っていると「べーパーロック」をたまに起こします。

 ブレーキディスクとブレーキパッド間で発生する熱がピストンを介してブレーキフルードを加熱、沸騰させてしまうのがベーパーロックです。ブレーキライン中に気化したブレーキフルードの気泡が発生します。気体は圧力がかかると圧縮されてしまうので、ペダルはどこまでも踏めてスカスカ、ブレーキはほぼ効かなくなります。

 そこでライダーによってはリアブレーキキャリパーにヒートシンクを貼り付けたり、高沸点のブレーキフルードを使用してべーパーロックが起こりにくいように対策しています。

 ちなみに「ペーパーロック」とも呼ばれますがこれは誤りです。「Vaper(蒸気)Lock」なのでベーパーロックです。


 本題。ベーパーロックについてはWebでこんな声が散見されます。「一度ベーパーロックを起こしたブレーキフルードは交換すべき。なぜなら再発しやすくなるから」と。YouTubeのコメントとかに多いですな。

 本当なのだろうか? その理屈がよく分からないのだ。そう考える理由を3つほど挙げてみます。

 1つ目は物理現象として違和感があるから。例えば水を加熱して100℃になれば沸騰して気化する。冷めれば水に戻る。では再び加熱すると今度は90℃で沸騰、なんてことはない。ブレーキフルードは水ではないので高温にさらされると変質する!?

 2つ目はブレーキフルードの取扱い説明にそんなことが書かれていないから。「吸湿性がありますので(蓋を)固くしめてください」、「飲用不可」、「まぜるな!」、その他諸々が注意書きとして書かれている(ホンダ純正DOT4ブレーキフルードより)。

 しかし「一度でもベーパーロックを起こすと再発しやすくなるので速やかに交換して下さい」とは書かれていないのである。もしそうならメーカーとしては絶対に書いておかなければならない注意事項だろう。一歩間違えば訴訟騒ぎである。

 3つ目は経験的に。ジムカーナの練習中、ベーパーロックを起こす。そのままでは走れないのでしばらく休憩して冷ます。するとペダルタッチは元通りになってちゃんとブレーキは効くようになる。ではその後練習再開するとベーパーロックが起きやすいかというとそうでもないのだ。

 もちろん十分に冷まさず再び走り出せばすぐにべーパーロックを起こすので、これが「一度でもべーパーロックを起こしたフルードは交換すべき」と言われてしまう所以なのだろうか?

 もっともこれはジムカーナ歴2年の私の経験だから、「違うぞ!一度沸かしたフルードは使いもんにならん! 初心者が何をいってやがる!!オラァ!」という意見もあるかもしれない。長年の経験的なものは結構正解だったりするし。

 本当のところはどうなんでしょう? どなたかご存知でしたらその理屈と合わせてご教授下さい。

ホンダDOT4ブレーキフルードのキャップ。

この注意書きを目にした方は多いことでしょう。

同じく使用上の注意及び使用方法。

ベーパーロックを起こした場合の注意記載はないのである。