ホイールベアリングの交換方法について考えてみる

2021/2 編集・追記

前から気になっていたホイールベアリングの交換方法について書いてみます。

結論から書くと、サービスマニュアル記載の方法や、一般に良く行われている方法だと、

交換作業した時点で新品のベアリングが傷んだり、位置がずれてしまっているのではないかと考えています。

ちょっと細かい話なので特に興味のある方だけ以下をどうぞ。

ホイールベアリングが組み込まれているハブの構造。

ベアリング2個でスペーサーカラーを挟んでいます。

外側のカラーを介して、それらをアクスルシャフトで両側から締め付けています。

実際にはダストシールや、フロントならスピードメーターギア、

リアならブレーキキャリパーブラケットなどもありますが、基本構造はこの図の通りです。

ベアリングがホイールに対してどうやって固定されているかというと、「圧入」です。

ベアリングが組み込まれる部分のハブの内径は、ベアリング外径よりもわずかに小さく作られています。

そこにベアリングを押し込む(これを圧入と呼ぶ)ことで固定がされます。

ベアリングもハブも金属なので、その寸法差はわずかです。

概ね0.02~0.04mm前後でしょうか。

金属同士の圧入には、数百キログラム以上の強い力が必要です。

交換時の順序はホイールとの隙間の無い側、基準側を先に圧入します。

逆から入れてしまうと、フォークに対してホイールの位置が狙い位置からずれてしまい、

ブレーキキャリパーとディスクのセンターが一致しないなどの原因になります。

どちら側が基準側かはサービスマニュアルで確認出来ます。

基準側のベアリングの圧入

まずは基準側を圧入しますが、ここではアウターレースと外径の合うソケットレンチなどで

叩き込んでも致命的な問題は起こりません

工具を本来の目的以外で使用するのは気に入りませんが。

反基準側のベアリングの圧入①

問題はこちら側です。

基準側と同じようにソケットレンチなどで叩き込んでしまうと、

ベアリングがスペーサーカラーに突き当たった時の衝撃でベアリングが傷んでしまいます。

ベアリングの中身は鋼のボールです。

ボールとその受け(レースと呼ぶ)は点接触なので、圧入時の衝撃荷重を受けると

打痕(凹み)を生じてしまい、寿命低下の原因になる恐れがあります。

また、基準側のベアリングを押し出して位置をずらしてしまうことにもなります。

反基準側のベアリングの圧入②

ソケットレンチが駄目なら専用のベアリング圧入治具で叩き込んだら良さそうですが、

スペーサーカラーを介して基準側のベアリングが傷んでしまうこと、位置がずれてしまうのは同じです。

サービスマニュアルに載っている方法なんですけどねぇ。

それでは、どうすればベアリングを理想的な方法で圧入できるかですが、下図のような方法になると思います。

反基準側のベアリング圧入③

このようにネジを締め付けていくことで圧入すれば、ベアリングは傷みません。

さらにベストなのは油圧プレスを使って圧入する方法です。

ここまで神経質になる必要はないのかもしれませんが、

本来、ベアリングの圧入は十分注意を払って行うべき作業です。

私はネジ棒を使った方法で圧入しています。

必ずしも適切と言えない方法がメーカー発行のサービスマニュアルになぜ記載されているのでしょうか。

理由は作業環境にあるのではと考えました。

油圧プレスを持っていないバイクショップもあるでしょう。

また、持っていたとしても、大きなホイールはセットできない可能性が高そうです。

一般的な油圧プレスは左右に支柱があります。門のような構造です。

スクーターなどの小径ホイールならセットして作業可能でも、例えばオフ車のフロントホイールなどは

径が大きくセットできない可能性が高くなります。

しかしホイールベアリングの交換は数万キロ走行毎には必ず必要になってくる作業なので、

現実的に可能な方法として記載されているのではと考えました。

叩いて圧入するより他に方法が無い場合もあるかと思います。

その場合のベストな方法はというと、反基準側のベアリングがカラーに

軽く突き当たったらすぐ止める、ということになります。

そろそろカラーに突き当たりそうになったら、状態を見ながら軽く少しずつ叩きます。

このあたりの話、詳しくはベアリングメーカーのホームページにも掲載されていますので、

興味のある方は検索してみてください。

ふと、スズキのハヤブサのサービスマニュアルを眺めていた時のことです。

ホイールベアリングの圧入用として、ネジ式の特殊工具の使用が指示されていました。

スズキには特殊工具としての用意があるようです。

ZX-14Rのホイールベアリング交換時には、購入して使ってみたいと思います。