古いハーネスは劣化している 2021/2

バイクは、メカと電気が協調することで走っています。

その電気を受け持つハーネスも、年月と共に確実に劣化します。

電気抵抗が大きくなり、電流が流れにくくなっていきます。

電流が流れにくくなれば、電装品が必要とする十分な電力を供給できなくなります。

実際に測定をして調べてみました。

R1-Zのメインハーネス。

数年前に購入した中古品です。

製造からは20~30年経過しています。

きっかけはこうです。

1年ほど前から、オーディオアンプを自作しています。

先日、3台目の回路が組み上がってテストをした時のことです。

仮配線をして電源を入れて音を出してみたのですが、音にはノイズが入りまくり・・・。

回路を組み間違ったか?、と焦りました。

しかし原因は、仮配線に使用したリード線付きのミノムシクリップでした。

ミノムシクリップを触ると、ガサガサとノイズが変化します。

導通不良です。

オーディオアンプのテストの様子(写真撮影用に再現)。

リード線付きのミノムシクリップを仮配線に使いました。

ミノムシクリップの抵抗測定。

本来ならば抵抗値はほぼゼロ、せいぜい0.1オーム以下です。

しかし測定値は約9オームもあります。

また、この値だったのはこの瞬間だけでリード線を動かすと値が変化します。

リード線が切れかかっているわけではありません。

スイッチのように接点があって接触不良が起きているわけでもありません。

原因は、リード線の圧着部にあります。

リード線圧着部。

左から、分解前、分解後、分解後(他の古い物)、比較のための新品電線。

電線の芯線は銅製なので、本来は一番右側の新品電線のように白っぽい輝きがあります。

しかし分解したリード線は酸化して黒ずんでいます。

酸化すると電気抵抗は高くなり、圧着してあっても導通不良になります。

これらのクリップを購入したのは20年以上前だったでしょうか。

年月の経過で徐々にリード線の酸化が進行したのでした。

同時期に購入の他の物も測定してみましたが、全て同じ症状でした。

このこときっかけに、古いバイクのハーネスが気になったのでした。

ハーネスには端子の圧着部が無数にあります。

R1-Zの左ハンドルスイッチ。

数年前に予備部品として購入した中古品です。

製造からは20~30年経過しています。

これで調べてみます。

ヘッドライトソケット部。

下調べしたところ、この端子の電気抵抗が特に高くなっていることが分かりました。

この端子を例に抵抗値を測定してみます。

測定。

いつか活用するかもしれませんが、どのみちこのままでは使い物にはなりません。

そこで測定用に端子を引き抜き、配線は3cmほど残して切断しました。

測定結果は0.17オーム前後でした。

※テスターの表示単位がΩ(オーム)ではなくV(ボルト)の理由は後述

え、たったそれだけ?だったら別に問題ないでしょ、細かいこと気にしすぎ!、とはいきません。

ヘッドライトの消費電力は60/55Wです。

バッテリー電圧は12Vなので、5A前後の電流が流れることになります。

するとオームの法則から、ここで電圧にして1V弱をロス、発熱もします。

古いバイクの大電流が流れるコネクター、例えばジェネレーターのコネクターなどが

溶けていたりするのはこのためだったりします。

新品状態との比較測定。

手持ちの新品端子と電線を圧着して、同じように測ってみました。

結果は、0.002オーム。

実に1/85です。

当たり前ですが、これならロスはほとんど無視できて問題になりません。

ギボシ端子の測定。

これもハンドルスイッチから取り外した物で、0.054オームでした。

ライトの端子ほどではありませんが、抵抗が高くなってしまっているのは明らかです。

ライトの端子の圧着部分解(左側)。

測定後に分解してみました。

芯線はひどく黒ずんでいて、右側の新品とは全く色が違います。

端子の方も内側の芯線との接触部が酸化して変色しています。

これではまともに電流が流れません。

ハーネスには圧着部が無数にあります。

1箇所のロスは小さくても、全体でのロスは数ボルトになります。

実車でも測ってみました。

もはや旧車、R1-Zのヘッドライトバルブにかかる電圧を測定。

なんと約9Vしかありません。

バッテリー部で測定すると約12Vだったので、実に約3Vもロスをしています。

電線そのものの抵抗分などは差し引いて考えなければいけませんが、それでも大きすぎるロスです。

250ccなので車検はありませんが、もし車検を受ければライトの光量不足で不合格になりそうです。

ハーネス同士は端子で接続されます。

その接触部なら、磨いて接触抵抗を改善することができる場合もあるでしょう。

スイッチの接点も同じです。

しかし、ハーネスの端子の圧着部だけはどうしようもありません。

ハーネスを丸ごと交換しない限り本来の性能、低い電気抵抗にはなりません。

とは言っても古いバイクでは、新品のハーネスが入手困難かもしれません。

そこで大電流が流れるヘッドライトのバイパス配線を追加したり、

ハーネスをコピーして作り直したりするのです。

テスターの表示単位がΩ(オーム)でなくV(ボルト)の理由

これは、低い抵抗を正確に測るための方法を採っているためです。

デジタル式のテスターといえど、1オーム以下を測るのは容易ではありません。

テスターそのもの接触抵抗の影響を受けたりしますし、私のテスターでは最小分解能が0.1オームです。

そこで、4端子法と呼ばれる方法で測定を行いました。

測定の様子。

今回は測定対象に1Aの電流を流しておき、測定箇所の両端の電圧を測りました。

抵抗値はオームの法則から、V(電圧)/ I(電流)で求められます。

電流は1Aちょうどにしたので(電源の表示は1.03Aになっていますが、実際はテスターで1Aに合わせこんでいます)、

測定電圧値がそのまま抵抗値になります。

そのため、テスターの表示単位はオームではなくてボルトになっています。

興味のある方は4端子法で検索してみてください。