R1-Z(その38・・・フロントフォークオーバーホール)

フロントフォークからのオイル漏れが激しくなってきてしまったのでオーバーホールをします。

オイル漏れは重々承知していたのですが、修理を先延ばしにしていました。

というのは、現状の物を修理するか、ヤフオクなどで中古を購入するか迷っていたためです。

現状の物はインナーチューブに点錆が結構あり、摺動部にも少しかかってしまいます。

アウターチューブのフェンダー取り付け部も欠けてしまっているので、

程度の良い中古が入手できればそれをオーバーホールして使いたいと思っていました。

ですが、オイル漏れが酷くキャリパーにまでオイルが回り込むようになってしまったので、

とりあえず現状品をオーバーホールすることにします。

オイル漏れの状態。

写真では分かりにくいですが、右側のフォークからオイル漏れが発生しています。

頻繁に拭き取って誤魔化しながら乗っていたのですが段々酷くなり、

気が付くと保管中に真下のブレーキキャリパーまでオイルが回り込んでしまいました。

分解開始。

写真の様にブレーキキャリパーを巾着袋に入れて吊っておくとホースに負担がかかりません。

キャリパーがあちこちに直接ぶつかることも防げます。

この方法、昔東京にあったエビナタイヤというバイクタイヤ専門店で

行われていた方法を真似ています。巾着袋は100均で買いました。

取り外したフロントフォークAssy。

分解していきます。

ダストシールの取り外し。

傷をつけないように慎重にスクレッパーを差し込んで持ち上げます。

このスクレッパーは弓鋸の刃を削った自作品です。

スナップリングの取り外し。

ピックアップツールでオイルシールの抜け止めのスナップリングを取り外します。

これはオイル漏れが発生していた右側ですが、スナップリングが激しく錆びてしまっています。

オイル漏れの原因はオイルシールに錆の破片を巻き込んだのでは、と思われます。

私はステンレスボルトはあまり好きではないですが、ここのスナップリングは

ステンレス製にしてほしいところです。水が浸入するとなかなか抜けにくく、

スナップリングを腐食させてしまいます。

トップキャップ取り外し。

フロントフォークを車体から取り外す前に緩めておくと作業が楽です。

抜いたオイル。

思ったよりは綺麗で異臭も弱めでした。さすがに新車の時から無交換では無さそうです。

オイルシール抜き取り・分解のために用意した金物。

分解用の治具を作ります。この金物、屋根の落雪防止用の金具らしいです。

ボルトと合わせて総額850円でした。

今まで私がフロントフォークを分解したことのあるホンダ、スズキ、カワサキのバイクでは、

フロントフォークの分解はインナーとアウターをガツガツ引っ張って分解するように指示されていました。

しかし、R1-Zでは油圧を使ってオイルシールを押し出して分解するように指示されています。

他メーカー同様の引っ張る方法でも分解出来ると思いますが、今回はヤマハ指示の作業方法で分解してみたいと思います。

金具の取り付け。

2X4材へ下穴を開け、金具をボルトで取り付けます。

分解治具?の完成。

治具を使ってのフロントフォークの分解。

フォークオイルを満たしたフロントフォークAssyをセットして、傷防止の板を介してパンタグラフジャッキで縮めます。

ちょっと2X4材が短くてフロントフォークとジャッキが入りきらなかったので、金具を取り付け直しています。

抜けたオイルシール。

ジャッキでフォークを縮めていくと、行き場を失ったオイルの圧力でオイルシールが押し出されてきます。

当然オイルがこぼれるのでトレーをあらかじめセットしておきます。

完全に抜けたオイルシール。

うまく抜けてくれました。

失敗例。

こちらはもう片側ですが、オイルシールが斜めに持ち上がってしまいました。

これ以上加圧してもオイルが漏れるだけでした。

錆びで引っかかったようです。

スライドメタル交換前提なら、他メーカー指示の分解方法でさっさと引っ張って抜いた方が確実かもしれません。

ボトムボルトの取り外し。

6mmのロングヘックスソケットでボトムボルトを緩めます。

万力があればクランプして緩めるところですがあいにく持っていないので、

キャリパー取り付け部に不要なボルトを入れて押さえて緩めます。

ダンパロッドホルダー。

ヤマハの特殊工具です。シリンダーがボトムボルトと供回りして外れない場合は

これで回り止めをします。

インナーとアウターの分離。

オイルシールが外れているので、軽く引っ張れば分離できます。

分解完了したフロントフォーク。

各部品の洗浄と点検をしていきます。

片方のインナーパーツには錆びが少し出ています。

水が浸入した上に長期放置されていたせい???

アウターチューブのシール挿入部。

スナップリングの錆びが移ってしまっています。

ピックアップツールやワイヤブラシで取り除きます。

シリンダー内部の洗浄。

ヘドロのようなスラッジが内側に固まっていました。ブラシを挿入して洗います。

洗浄後は汚れが残っていないかライトで内側を照らして観察しましょう。

ピストンリング。

片方は錆を巻き込んだのか傷だらけでした。

これではオイルが通りやすく、減衰力が弱くなってしまうので交換します。

ダンパロッドホルダー(左)とシリンダー(中)。

ちょっと余談。

シリンダーの回り止めに使用するダンパロッドホルダーは四角錐形状なので、

シリンダー側も四角い穴が開いているのかと思っていたのですが違いました。

シリンダー側は単純な丸穴で、ホルダーのエッジを食い込ませて回り止めにするわけです。

右はカワサキGPZ1100用の同じ目的の工具ですが、六角形同士で勘合するようになっています。

同じように勘合させるのかと思っていたら違いました。

トップキャップ。

イニシャルアジャスターのOリング(下の小さいOリング)に細かい亀裂がたくさん見つかりました。

パーツリストで調べると、このOリングはヤマハ純正部品としては単品設定されていません。

採寸して同等品を探すことにします。

フォークスプリング自由長の点検。

2本とも標準値ぴったりの387mmでした。

このまま使います。

スライドメタル。

摩耗は見られないので再利用します。

今まで何台かのフロントフォークのオーバーホールをしてきましたが、

スライドメタルが摩耗していたことはありませんでした。

オイルに浸かっているのでほとんど摩耗しないのかも。

指で触ってバリやカエリが無いかもチェックしましたが問題ありませんでした。

交換部品を発注して組み立てます。

組み立てが完了するまで地震が来ませんよーに(-人-)

部品が揃ったのでここからは組立てです。

ただし、フロントフォークは組立て方次第で動きが良くも悪くもなります。

ポイントはシリンダーの取り付けですが私なりの方法を紹介していきます。

イニシャルアジャスターのOリング交換。

ヤマハ純正部品としては単品設定がないので、採寸して汎用のOリングを購入しました。

JIS規格のP9がぴったりでした。4個で110円。

材質や硬度は純正と同じではないと思いますが

ここはそれほど神経質にならなくて良いと思います。

アタック性の強いガソリンとかブレーキフルードが相手だと真面目に考えないと危険ですが。

交換する純正部品。

セッティングについては標準値で組むことにします。

組立て開始。

傷だらけだったピストンリングは新品に交換します。

スライドメタル、オイルロックピースはそのまま使用します。

シリンダー先端座面のカエリのチェック。

フロントフォークがスムーズにストロークするための肝は、シリンダーを真っ直ぐ立てられるかどうかです。

シリンダーはフォークの下端でボルト止めされるわけですが、

シリンダーの先端の座面にカエリなどがあると斜めに固定されてしまいます。

そこでシリンダー先端座面のカエリを入念にチェックしておきます。

シリンダーが傾いてしまった場合の解説。

(構造は一部省略して描いています)

シリンダーが斜めになると、シリンダーとインナーチューブ内面、

インナーチューブとスライドメタルとの間でフリクションが発生してしまいます(赤矢印部)。

シリンダーは先端のわずかな面積でアウターチューブ底面に接触するので、

先端部にカエリがあると影響が大きく、簡単に傾いてしまうのです。

シリンダー先端が接するアウターチューブ底面のカエリはどうするんじゃい?、と言われると正直困ってしまいます。

場所が場所だけにこちらはカエリのチェックが出来ないのでそのままです。

シリンダの固定。

サービスマニュアルの指示に従い、ボルトにはネジロック剤を塗布します。

ボルトの締結。

トルクレンチで規定トルクで締めます。

シリンダーが共回りしてしまう場合は、特工で押さえます。

インナーチューブの傾きのチェック。

前述したように、シリンダーが斜めに固定されてしまうと、

インナーチューブ内面との間で強いフリクションを発生させてしまいます。

シリンダーが斜めになっていないかを上側のスライドメタルを入れる前にチェックします。

インナーチューブとアウターチューブの隙間・ガタが全方向で均一かをチェックします(下図参照)。

解説。

シリンダーが斜めだと、インナーチューブを内側から倒すように押すため、

インナーチューブがアウターチューブの真ん中に位置しません。

図のように片寄るので上側のスライドメタルを組む前にチェックします。

見極めが少々難しく、運の要素もあるので完全に真ん中には来ませんが、

片寄りが酷い場合はシリンダーの固定をやり直します。

スムーズにストロークするかのチェック。

サービスマニュアルではオイルシール、ダストシールまで組立ててから

スムーズにストロークするかをチェックするように指示されています。

しかし(新品の)シールのフリクションは結構大きいので、シールを組んだ後では判断しにくくなります。

そこで、スライドメタルとワッシャーまでを組んだ状態でチェックします。

オイルシールの組込み。

スムーズにストロークすることが確認できたら、オイルシールを組み込みます。

内側にはフォークオイルを塗ります。外側にはスムーズに挿入できるようにグリスを薄く塗ります。

ダストシールの打ち込み。

特殊工具で打ち込みます。打ち込むといってもそれほど力は要らないはずです。

この特殊工具、オイルシールを押し込む先端の樹脂部品の長さが短すぎです。

今回はなんとかオイルシールを座面まで打ち込めましたが、

他の車種で届かなかったことがありました。

オイルシール固定のスナップリング組込み。

防錆のためにグリスを塗っておきます。

雨天走行後はダストシールを持ち上げて、内部の水分を吸い取れば防錆には完璧なんでしょうけど。

フォークオイルの注入。

使用するのはヤマハ純正のG-10です。

規定量は361ccですが少し多めに入れます。

ストロークさせてエア抜きをした後で油面で合わせます。

オイルレベルゲージのセット。

サービスマニュアル指定の140mmに合わせます。

このゲージ、自作品です。

スプリングの挿入。

レベルゲージでオイルを抜いて油面を合わせたら中身を入れます。

スプリングはピッチの細かくなっている方を上にします。

組立て完了。

あとは車体に組むだけです。

インナーチューブの点錆が摺動部に少しかかっているので、

オイルシールも傷んでしまい、またそのうちオイル漏れが発生してしまうかもしれません。

程度の良い中古を探していくか、2014年5月現在購入可能な新品のインナーチューブを購入してしまうか悩むところです。

ちなみにフェンダー取り付け部が破損しているアウターチューブはメーカー販売終了なのです。

追記!!

・・・組み上がったフロントフォークを床に立て、手で押してストロークさせてみます。

「ジュルジュル」、「ビュウビュウ」。

何だかまだエアが残っているような音がします。

そういえば過去にオーバーホールした他メーカー他車種のフロントフォークでも

同じような音がしていました。

その時は、ちゃんとエア抜きしたし、間違いなく組んだはずなので気にせずに車体へ組みました。

しかし冷静に考えると変です。

構造からよーく考えてみた結果、サービスマニュアル指示の単純にストロークさせるだけの

エア抜き方法では不十分な可能性を思いつきました。

フロントフォークの構造。

矢印の位置にエアが残ってしまっているのでは???

通常、フォークオイルはインナーチューブ内側へ組立て後に注入します。

ストロークさせればインナーチューブ内側のエアは抜けてきますが、

矢印の付近にはエアが残ってしまいそうです。

上部はオイルシールでシールされているので、エアが上に逃げることが出来ずに溜まり、

オイルで満たされないのでは???と考えました。

そこで、エア抜きをしてみることにします。

買ってきた直径0.3mmのステンレス線。

ワイヤリングに使うステンレス針金と違って弾力があります。

先端の加工。

先端を丸く加工します。紙ヤスリで削りました。

エア抜き。

オイルシールのリップとインナーチューブの間にステンレス線を慎重に差し込んで隙間を作ります。

しばらくするとエア混じりのオイルが出てきました(オイルシールの上下リップ間の分のエアもあると思いますが)。

やっぱりエア溜まりになっていたかも。

ステンレス線の先端を丸く加工したのはオイルシールのリップを傷つけないためです。

せっかく交換したオイルシールのリップを傷付けては元も子もないので。

あふれさせたオイルを拭き取り、ダストシールを戻してストロークさせてみると・・・

エアが残っているような音は消えました!

エアが残っていて異音が発生していた、またはエアが残っていてオイルが回り込まず

メタルの潤滑が不十分で異音が出ていた、のどちらかだと考えています。

エアと一緒にオイルも抜いたので、厳密に言うと油面が下がったはずですが、

おそらく1mlにも満たないので、油面合わせのやり直しはしていません。

私の知っている範囲ですが、他メーカーのサービスマニュアル上でも

オイル注入後のエア抜きの方法はストロークさせるだけの指示になっています。

それだとこの位置にエアが残ってしまいそうです。

工場組立て時はどうしてるんでしょうかね???

推測ですが、空気分子は小さいので時間経過とともにオイルシールのリップ部と外周部から

抜けていき、オイルで満たされるのでは?と考えました。

しかしそれではスライドメタルの潤滑がしばらく不十分になってしまいます。

どなたか、詳しい方がおられましたらご意見・ご指摘等のメールをお待ちしております。

こちらからどーぞお願いします m(_ _;)m

車両に取り付けたフロントフォーク。

フォークをオーバーホールしてのインプレですが、

フロントの挙動が落ち着き、特にコーナーのバンク中の安心感がアップしました。

さて、いい加減にフェンダー塗らなきゃ!