R1-Z整備の記事では度々、
「オイルストーンでカエリを取る」とか、
「オイルストーンでカエリをチェックする」、と私は書いています。
金属加工などの現場では「カエリ」という表現は当たり前のように使われていて、珍しくありません。
しかし、関わりの無い人にとっては何のことか理解しにくいと思います。
そこで、「カエリ」とは何か、どうして取る必要があるのかなどを解説してみます。
ガスケットで密閉された部品同士の合わせ面の断面図。
これは一例です。柔らかいガスケットを合わせ面に挟み込むことによって密閉し、
オイルなどの液体が内部から漏れてこないようにしています。
クランクケース同士、クランクケースとシリンダー、シリンダーとシリンダーヘッドなど、
密閉を保たなければならない合わせ面は多くありますが、
これらには全てガスケットが挟まれています。
ガスケットには紙製の物、金属板の物、塗って使う液体の物など色々ありますが、
密閉という機能では同じです。
合わせ面の分解。
修理などで分解した時、ガスケットだけがきれいに剥がれてくれれば良いのですが、
実際には破れて部品に残ってしまいます。
残ったガスケットの除去。
張り付いたガスケットが残ったままでは組立てられないので取り除きます。
簡単には取れないのでスクレーパーなどで削り取ることになります。
「カエリ」の発生。
スクレーバーを使うと、どうしても合わせ面も部分的に削れてしまいます。
単純に削れるだけなら凹みになりますが、実際は周囲が変形して盛り上がります。
これが「カエリ」です。
また、角部などを何かにぶつけても変形して周囲へカエリが出ます(図の左端の例)。
可動部に異物を噛みこんでしまったり、潤滑不良で部品同士がカジってしまった場合にもカエリはできます。
カエリは表面から出っ張っているので、可動部のスムースな動きを妨げます。
カエリを取らずに組み立てを行った場合。
合わせ面からはカエリが出っ張っているので密着しません。
オイル漏れの原因となったりします。
また、ガスケットも含めて部品同士が密着しないので、
組み立ての精度も悪くなってしまいます。
カエリ取り作業の例。
カエリ取りによく使われるのはオイルストーン(油砥石)です。
オイルストーンを押し当てながらこすってカエリを削り取ります。
オイルストーンと部品表面が全体的に当たり、指で触って引っかかりが無くなれば完了です。
これは少し経験が必要です。
注意点が1つあります。
カエリが取れているのに余分に削り過ぎてしまうと、全体的な平面精度は悪くなってしまいます。
すると逆にオイル漏れなどの原因になります。
カエリ取りを行って組立てた合わせ面。
部品同士が密着して密閉が保たれます。
ここで、凹んだ部分は影響しないのか?と思われる方もいるでしょう。
結論としては(程度にもよりますが)影響しません。
全体的に密着しているので部分的に凹んだ部分があっても影響しません。
ただし、合わせ面を完全に横切ってしまうような凹みは問題です。
スクレーパーを使うときは慎重に作業しましょう。
ガスケットを剥がす作業は面倒で時間がかかります。
エンジンのオーバーホールなどでは、部品の洗浄と並んで時間を要する作業になります。
ちなみにガスケットリムーバーというケミカルもありますが、
経年劣化でカチカチに固まったようなガスケットにはあまり効果がありません。
また、塗装を溶かしてしまうので、エンジン外側が塗装してあるような場合にはあまり使いたくありません。
オイルストーンの代わりに、サンドペーパーは使えないのか?
と思う方もおられるかもしれませんが、結論としては使えません。
サンドペーパーは紙なので柔らかく、面に追従してしまいます。
そのため本来削りたい出っ張ったカエリ以外の部分も削ってしまうので使えないのです。
カエリは上で紹介したような作業以外にも発生します。
下図はドリルで穴を開けた場合です。
ドリルで穴を開けた場合の断面図。
ドリルの挿入側にカエリができます。
反対側、ドリルの貫通側にできるのは「バリ」です。
「カエリ」という書き方ですが、「かえり」と平仮名で書くのが良いのか、
「返り」と漢字で書くのが良いか分かりません。
Web上でざっとみた感じではカタカナの「カエリ」が多いように思いました。